
不動産コラム
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不動産所得の税務調査の現状。安全な税務申告書の作成方法は?
本記事では、主に不動産所得の税務調査について説明します。世間では、税務調査はマルサと同じものと勘違いされている方が意外と多いですが、同じ税務調査でも通常の税務調査とマルサは違います。マルサは、国税局査察部が強制的に行う税務調査のことをいい、犯罪性の高い悪質な脱税行為を対象に行うものです。今回は、マルサではなく、通常の税務調査について、これまでの税理士経験をもとに、世間に多くある「税務調査の対処法」とは少し違った面から説明をしてみたいと思います。税務調査に対する考え方や税務調査が入ったとしても安心な確定申告書の作成方法などを説明しますので、参考にしてください。
税務調査とは
税務調査は、国税通則法第74条の2に規定される「質問調査権」に法的根拠があります。一般的な税務調査は、任意質問権に納税義務者が任意で応じるという建前で、主に所轄の税務署の調査官が行います。日本の法人税や所得税などは、「申告納税方式」といって納税者が税額を計算し確定するため、その計算に誤りがないかを国が確認するために税務調査が必要です。
平成23年の国税通則法改正で、税務調査の透明性や納税義務者の予見可能性を高めるなどの観点から、税務調査手続きが明確になり、税務調査の方法も変化しました。原則として税務調査に入る場合には、納税者や税務代理の税理士へ税務調査に入る旨の予告を行い、調査終了後も調査結果の説明などが必ず行われるようになりました。
税務調査の流れ
税務調査は、通常は税務署などより電話で調査予告と日程調整の連絡があり、税務調整の日時と訪問場所を確定します。個人の税務調査は7月半ばころから随時連絡が入り税務調査が開始されるのが一般的です。よほど解明できない点が残らない限りは、2月の確定申告に入る前までに終了します。
税務調査の対象になる理由
不動産所得の税務調査は、所有不動産の規模にもよりますが、税理士である筆者の経験上では一生に一度あるかないかの方が多く、大掛かりな税務調査になったことはありません。税務署は税務調査に入る前に内部資料を集計するなどをして、申告漏れなどの可能性が高い納税者をピックアップし、税務調査の対象に決定します。具体的には、次のような理由で調査対象を選定されると思われます。
取引先が税務署へ提出した法定調書と申告書の内容に差額がある場合
給与や報酬の支払いのある法人や個人は、1月から12月までの支払い状況や源泉所得税の徴収結果をまとめて、1月末までに法定資料として税務署へ提出することが義務です。その支払調書の一つに家賃の年間支払い金額を支払い先ごとに記載する調書があります。この調書が税務署間でやりとりされ、調査資料として支払いを受けた納税者ごとに集計されるのです。その結果は、管轄の税務署で確定申告書の家賃収入の内容と比較され、明らかに差異がある場合には税務調査の対象になります。
税務調査は、対象の納税者の申告内容の確認だけではありません。経費などの支払先(家賃の支払い先)や修繕工事の依頼主の氏名、住所、支払い金額、支払い日、振込口座などを税務署の内部資料として持ち帰り、管轄の税務署へ調査資料として送ります。資料を受け取った管轄の税務署は、資料対象者の申告内容と照らし合わせ、家賃の申告状況や修繕工事費の申告処理状況などを確認し、申告内容に疑問がある場合には、税務調査の対象になります。
他社の税務調査で収集した資料と申告内容に違いがあると思われる場合

申告内容から計上漏れなどが推測される場合
不動産所得の青色決算書や収支明細書には、賃借人を記載する欄があります。建物の規模から推測して明らかに家賃収入が少ない場合や、部屋番号が飛んでいて家賃収入の計上漏れが予想される場合には、不動産を実際に確認しに行くことがあるようです。許可なく敷地内に入って確認することはできませんが、外観から見て明らかに申告されている賃借人が少なく見える場合には税務調査の対象になります。 また、同じ地域の家賃相場と比較して、明らかに申告書の家賃の金額が少ない場合にも調査対象になることがあります。他社の資料集めのために税務調査が入る場合も
ある特定の会社の税務調査に入ることを目的として、その会社と取引のある会社や個人に税務調査に入ることはよくあります。税理士として調査立ち会いをしていると、そういう目的の調査であることに気が付きます。調査官の聞き取り内容が特定の会社に偏っているためです。不動産所得の税務調査でこのようなケースはあまりないとは思いますが、修繕を委託した建築関係の会社に調査に入るための予備調査は考えられます。この場合、税務調査の最終的な目的は別にあるため、申告内容に大きな問題がなければ長い時間をかけて税務調査を行うことはありません。わかる範囲で淡々と調査に協力して、スムーズに進めることが大切です。 上記のような状況から、税務署の資料をもとに推測も含めて調査対象を決めるため、必ず間違いを指摘されるわけではありません。実際に税務調査を受けて、修正申告を提出する必要がなく終了する調査も少なくありません。 税務調査における税理士の役割 税理士は、税理士法の第1条で「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」(※原文ママ)と定められています。納税者の税務代理
納税者の税務代理は第2条の1で「税務代理」を税理士業務の1つとして定められていています。税務調査の際に立ち会いをしたり、納税者の代理人として税務署の調査官と内容のやりとりをしたりできる根拠になっているのです。税務署へ確定申告書を提出する際に「税務代理権限書」という書類を一緒に提出し、税務署に対して税務代理人であることを示します。これによって、税務署による税務調査の連絡や申告内容の問い合わせなどは、基本的には納税者ではなく税理士に来るようになります。書面添付制度
「書面添付制度」とは、相続税・所得税・法人税などの確定申告書を作成するにあたって、税理士が確認した書類の内容や、納税者からの相談などについての書面を作成し(もしくは他人の作成した申告書の相談を受け、申告書の内容を審査して、法令に従って作成されていると認めたことの書面を作成し)、申告書と一緒に税務署へ提出する制度です。 この書面を申告書に添付して提出すると、税務署は税務調査に入る前に、税理士に対して意見聴取を行うことになります。申告書に問題がないことが確認されれば、税務調査が省略されます。どうしても気分的に税務調査は受けたくないという方は、税理士へ相談してみましょう。信頼関係のできている税理士であれば、相談にのってくれるはずです。ただ、制度が始まって20年近くがたちますが、あまり積極的な税理士は多くなく、世間的にはあまり浸透している制度ではありません。 税務調査にならないための申告書の作成方法 不動産所得は、55万円の青色申告特別控除を適用できる事業的規模の方はそれほど多くないでしょう。55万円の控除は複式簿記を前提にしています。複式簿記を使うと、家賃収入や経費の集計をしていくと同時に預金や現金、敷金や保証金などの残高も確定します。貸借対照表を正確に作成できると、損益計算書、申告所得も正確に計算されます。しかし、残念ながら複式簿記は手間や専門的な知識が必要です。そのため、55万円控除を受けない場合は、複式簿記を使って帳簿を付けている方はほとんどいないのではないでしょう。 ただ、不動産所得はそれほど多くの種類の経費があるわけではないので、税務調査対象にならないための注意点はそれほど多くありません。経費の中で気をつけたいのは、修繕費の経理処理方法や、個人的な使用も含まれる家事関連費の按分程度ではないかと思います。 不動産収入は、部屋ごとに契約書と入退出の精算書をチェックし、エクセルなどで一覧表を作成しておけば、抜け漏れなどのミスも起こりにくくなるでしょう。この一覧表をもとに、丁寧に損益計算書や収支明細書を作成していけば、見栄えもしっかりしたものが出来上がります。 丁寧に作成された申告書一式は、税務署でも税理士でも一目見ればわかります。以上のような点に注意して、税務署が疑問を持ちにくい申告書を作成して提出することはとても大切です。 今後の税務調査の方向性 国税庁は、申告内容の精査や税務調査の対象の判断にAI・データ分析を活用していくことを公表しています。 参照:国税庁|税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(令和3年6月11日) https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation/pdf/syouraizo2_r0306.pdf この流れから、これまでのような紙の調査資料を集計して、調査対象を決めていく作業は減っていくと考えられます。AIは蓄積データが増えれば増えるだけ、精度を増していきます。申告内容の明らかな間違いは、税務署が税務調査に直接出向いてやりとりをしなくても、納税者へ間違えた箇所の指摘をして修正をしてもらえれば済むので、税務署側の手間もそれだけ少なくなるでしょう。この先は、そうした税務行政の方向へ進んでいくのは間違いないと思われます。 手書きの申告書を作成していた時代には、計算ミスを指摘されることがありましたが、コンピュータのソフトを使って作成していく現在は、単純な計算ミスはなくなりました。ただ、現在の会計税務ソフトに税法の判断を組み込んでいるソフトは少なく、この税務判断を納税者とコンピュータとのコミュニケーションで行われていくようになると、現在のミスもさらに少なくなるでしょう。ミスによる修正申告の提出数が減っていくことで、税務調査は減少し、税務署内の業務の効率化も進むため、公務員数の減少と歳出の削減につながっていきます。 まとめ 税務調査が入るのは、あまり気持ちのいいものではありません。ただ、丁寧に作成した申告書を提出していれば、決して恐れるようなものではありません。普段話をする機会の少ない税務署員に疑問や質問をするいい機会だと考えましょう。まずは、経理処理で疑問などがあれば、管轄の税務署や税理士へ質問して、間違いのない申告書を提出できるようにしていきましょう。 執筆者: 須栗 一浩 税理士 税理士法人エムエスオフィス 代表 1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員
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