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相続不動産を兄弟で共有名義にする
注意点やデメリットをご紹介
相続に関わる問題は非常に多岐にわたるため、
記事を1つ読んだだけでは
簡単に理解できないのが実態でしょう。
この記事では、相続のなかでも
「相続で親から子どもが土地を受ける際の注意点」
について説明します。
不動産の相続
相続では、亡くなった被相続人の財産等をすべて収集し、財産等の価額を評価して相続人の間でどう分けるかを話し合い(分割協議)、分割協議書を作成します。
この分割協議書に押印することで相続は決着となります。
また、通常は財産等の価額の評価後に相続税の試算も行い、相続財産等の分割割合に応じて各相続人が相続税の負担額を確認し、分割協議の参考にします。
分割協議書が完成したら、分割協議書の内容にしたがって相続財産を分配するとともに、相続税の申告書を作成し、申告と納税を行います。
このように相続財産等の分割を決めることが相続そのものと言えるでしょう。
その分割の中で重要な財産は土地です。土地は分割協議の結果によって取得の決まった相続人の名義を法務局に登記します。登記の形態は1つの土地に1人の名義ではなく、2人以上の共有や分筆してそれぞれの所有分を登記することもできます。
ただ、土地は通常、建物を建てたり、売却したりすることで価値が出ます。
それなのに相続税や平等な分割ばかりに目がいってしまい、深く検討せずに共有名義にしたり分筆をしてしまったりすると、土地を売却できなくなったり建物を建てられなくなったりして、土地の価値がなくなってしまいかねません。
土地を相続する際に必ず考えなければならない特例とは
まず、相続時の相続税の額を少なくする面から分割を考えると、2つの相続税の特例が重要になります。
それは、「小規模宅地等の特例」と「配偶者控除の税額軽減」です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人の土地の使用状況を相続人が引き継ぐなどの要件を満たすことで、面積が330㎡~400㎡までの土地の評価が最大80%減額することができます(2024年現在)。この特例が使える土地は、以下の3つです。
1. 特定居住用宅地
2. 特定事業用宅地
3. 貸付事業等宅地
この中で最も関係が大きそうなものが居住用宅地です。被相続人が住んでいた建物の敷地に、主に配偶者や同居していた相続人が相続する場合に適用になります。
限度面積までは評価額の80%が減額されるため、納税額が無くなるケースも少なくありません。
居住の有無によって税額が大きく変わってきますので、分割をする際には必ずこの特例の有無を検討しましょう。
小規模宅地等の特例は細かい要件があり、改正も多いので、相続の年の要件はよく確認しましょう。
参照:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
配偶者控除の税額軽減
配偶者控除の税額軽減は、配偶者が分割で取得した財産が、
①1億6千万円、②配偶者の法定相続分相当額
のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかからないという制度です。
配偶者が存命中の場合には、この制度を有効に活用して分割すると相続税が少なくなります。これらの特例等を適用するには、申告期限までに分割協議が終了し、申告書を提出している必要があります。
分割協議が終わっていない場合の特例もあるので、分割が終わらない場合には税理士や税務署へ相談してください。
不動産相続の具体例
次に、不動産相続について具体的な例を挙げて説明します。
【ケース1】母が存命中の場合の相続
このケースでは、亡くなった被相続人である父とその配偶者の母、成人している子どもが二人で、財産の所有の割合は不動産、現金・有価証券、生命保険など、バランスよく所有し、相続税の課税財産の合計が基礎控除以上になることを前提とします。
被相続人の配偶者(ここでは母)が存命である場合には、配偶者が財産を多く取得することで配偶者控除という特例を受けることができるため、相続税額の面では有利です。
子どもの年齢が若く、先々に誰がその土地を使用するか決まっていない場合には、配偶者名義にしておくのがいいでしょう。
土地の時価の変動から分割を考えると、新しく開発が進むなどして時価の上昇が予想される地域は、時価が上がっていく前に次の世代へ渡していくことが相続税面では有利であり、そこに住み続ける予定の子どもが相続するか、母との共有にするのがいいでしょう。
アパートなどで賃貸をしている土地で時価の変動の少ないと思われる地域は、母が賃貸料収入で暮らしていく場合には、建物は母名義にして、土地は母名義か子ども名義、もしくは共有名義、母が賃貸料収入で暮らすわけでなければ、土地建物ともに子どもの名義にするのがいいでしょう。自宅として住んでいた場合も同様の分割がいいでしょう。
【ケース2】両親ともに死亡している場合の兄弟での相続
このケースでは、両親ともに亡くなっており、相続人は子ども2人以上で、財産の所有の割合は不動産、現金・有価証券、生命保険など、バランスよく所有し、相続税の課税財産の合計が基礎控除以上になることを前提とします。
両親ともに亡くなっている場合、子どもが相続することになります。
売却を前提にしていない不動産を兄弟間で共有するのは避けたほうがいいでしょう。
兄弟間で所有している間は問題ないとしても、兄弟のどちらかが亡くなったあとは、兄弟の1人と亡くなった兄弟の相続人である妻や子どもと共有することになっていくため、さらにその先の世代のことを考えてもとても厄介になります。
いずれかのタイミングで「他人への譲渡」か「親族間での譲渡や贈与」で共有を解消しなければならなくなります。
法定相続割合に合わせて、財産を平等に分割するために共有名義にするのは避けたほうがいいでしょう。
相続税の面では、兄弟のどちらかが居住していた土地であれば小規模宅地の居住用の特例を適用できるので、居住していた子どもが相続する前提で分割を進めるのがいいでしょう。
もし、分割協議がまとまらずに売却しなければならなくなった場合には、土地を共有にし、小規模宅地の特例を適用できる相続人がいる場合には、特例を適用して相続税を確定し、小規模宅地の特例の要件である申告期限後に売却します。
その流れで売却した場合には、譲渡所得の居住用不動産の特例や相続税の取得費加算の特例を受けたりすることができます。
また、代償分割という方法もあります。
例えば、相続人が土地の全部を相続し、他の相続人に対して相続土地相当分を現金等で支払うことで平等に分割する方法で、これによって土地の共有や売却せずに分割協議をまとめることができます。
まとめ
以上のように、相続人が親子3人程度でもいろいろなケースが想定され、最良な分割と最小の相続税の組み合わせにはならないことが多いです。
相続税の計算はとても難解で、相続財産に土地が含まれる場合には、税理士が計算をしてもまったく同じ税額にならないことが一般的です。
土地の評価額計算は、土地の現状確認や役所への確認など時間がかかる作業が多いため、相続が発生したらできるだけ早く税理士に相談することをお勧めします。
執筆者:須栗 一浩 税理士 税理士法人エムエスオフィス 代表
1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。
個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。
ファルクラム租税法研究会研究員
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